タッシリナジェールをラクダに乗って3日間


この地域のトゥアレグ族を知るには、ずっと昔から物々交換しながら砂漠をゆくキャラバンと一緒にラクダに乗るのが最適である。我々の日常生活そのものの、携帯電話やノートパソコンなどを残して、ジャネットからたった30分歩けぱ、「無」の世界に着く・・北西に位置するエハラジの登りは滝のように岩石が続き、ラクダの後ろについて歩かなくてはならない。少しずつ景色は奇妙な形の巨大な岩石に変わりそれを金色の砂丘の波が柔らかく取り囲んでいる。そこでラクダの高いこぶの上に登るとこの眺めはもっと強烈である。ラクダの上で快い風と眺めを楽みながら、まぶしい砂漠の中に音もなく静かに入り、あちこちの砂岩が人の顔のように見えて思わず瞬きをする。


旅の二日目には、キャラバンは世界の終焉のような景色に入り込む。岩の迷路に深く深く入り込み、だんだんと時間の感覚を失ってしまう。我々はイナラマスという、水や風の侵食によって象の肌のように皺を刻んだ先史時代の岩の真ん中に立つ。この瞬間に、自らを原始の穴居人として想像を巡らすことも難しくない。巨大な砂岩の上までは簡単に登れそこでパノラマを眺める。永遠に広がる砂漠を見て、我々はなんて小さいものだろうと思い知らされる・・
昼食後、岩の間の細長い曲がりくねった道をしばらく進めば、タッシリのラクダ使いのたまり場であるタスタレットの広い土地に夕方には着く。果てしない地平線、砂の上に打ち込まれたような黒い岩の群、季節によっては豊かな草地にもなるタスタレット。まだ暖かい炭やラクダ用の縄などが残っている洞窟の中でごく自然にお茶の休憩となる。岩には、山羊の水袋、タイヤでできた水袋、お茶の道具が入っている大袋などがのんびりとぶらさがっている。それはラクダ使いたちが砂漠の旅に備えて置いた物である。砂漠は誰のものでもないから、誰でもそこでくつろげる。


日が沈む前には、キャンプの周りを散歩しながら、夜のための薪を探す。夕食はいつもシンプルで美味しい。それは我々がとてもおなかが空いているせいなのか、簡単なものに満足することを学び初めているせいかもしれない・・炭で焼くパンやマカロニ、刻んだ肉、お茶、焚き火のパチパチいう音、言葉少なに眼差しや微笑を交わすだけで心が通じる。
寝袋の中で震える暁。砂漠の夜は寒いが、何万の星空の下の夢はとても優しい!起きて、熱いお茶を作りながら焚火のそばにしゃがむ。昨晩のトゲラのパンとジャム、温かいパウダーミルクとお茶3杯でおなかは一杯。
出発し、アサスの蛇行した道をゆっくり歩く。その奥に、ゲルタという雨水の溜まる岩の窪地がある。ゲルタは雨が降った時期によって、量も色も変わり、時には茶色っぽい水(水底の砂に混じった水)、時には青い水になる。そこでは、ラクダに水を飲ませ、水袋やブリキ缶を満杯にする。そこは飲料水を優先するゲルタで、泳ぐのは禁止されている。水を汲んで岩の裏の日陰でたっぷりリフレッシュしてから、新鮮な気分で昼食の休憩を楽しむ。
サハラの恵まれた水を味わってから、アルモアーズという香りのいいハーブの溢れたウエッドに辿り着く。ここでは砂漠は我々の足の下に緑の絨毯を茂らせている。ラクダに乗って、ウエッドに沿ってゆっくりと進む、心楽しい散歩を一時間ほどすると、巨大な砂丘にぶつかる。そこでラクダから下りて、皆さんはひざまで砂に埋まって登り、頂上で豪華な砂漠の景色を発見する。
巨人の黒い尖塔岩が空に聳え、ティハラミウェンの広大な砂漠に日がゆっくり沈むころ、遠く鮮やかな草の絨毯に横たわるモン・ブラン山の完璧な円錐が現れてくる。岩の足元で我々は最後の野外キャンプの夜を過ごす。夕暮れ、どこかの遊牧キャンプに山羊と一緒に帰る羊飼娘の呼び声や、牧草地に連れて行く足かせをはめられたラクダの低いうなり声が聞こえ、その後は完全な静けさ・・


翌日は午前中は急がずに、お茶を飲みながら、砂丘にくっきりと見える草を食む黒と白の山羊の姿を見る。我々のラクダ使いは朝早くラクダ達を探しに行っているので、ゆっくりと彼の帰りを待っている。実は、足かせがはめられたラクダは隣に草地があっても、夜にかけて一番好きなところまで何キロも歩くのは珍しくない。それでラクダ使いはラクダの足跡を追って探さなければならない・・多数のラクダの足跡がいっぱいの砂の上には、その他に砂漠に生きているジャッカル、フェネックギツネ、ガゼル(小型のカモシカ)、ウサギ、白ねずみやムフロンという野生の山羊の足跡などもあり、そこから自分のラクダの足跡を見つけることは信じられないほど優れた知恵がいる。その知恵によって、遊牧民は砂に書いてあるものを本のように読み、各足跡の古さや形によって検討し、そこを通った動物に限らず人間も見つけることが出来る!
そしてラクダ使いは難なくラクダを見つけ、我々は岩の隘路にゴーゴーと吹く砂風のせいで幻のように朦朧とした砂漠の海の中をジャネットに向かって錨を上げる。ティスラスの高地に至る何千のラクダの足跡に踏み固められたうねうねした道を通って、小さい我々のキャラバンはお昼ごろジャネットの門に到着する。我々の眼の前に広がるジャネットのクスールと豊かな椰子の菜園を眺めて言葉もなく目が眩み感嘆する。そして、砂漠を横断したキャラバンの人々のように究極の満足感と共に、「タッシリの真珠」ジャネットのオアシスの慰めに満ちた木陰へゆっくりと降りていく。

写真・文: Alissa Descotes-Toyosaki