トゥアレグ音楽のドキュメンタリーも紹介する8月30日のイベントの際、2025年5月『Music magazine guide book』 に掲載された記事をシェアーします(記事と多少異なるところがありますのでご了承下さい)。ティナリウェンで世界的に知られた「デザート・ブルース」が、さらに多彩な広がりを知らしめたのがこの15年のトゥアレグ音楽の経緯や注目されたバンドの紹介です。

レベルからラヴァーズ
レジスタンス、そして砂漠の愛を歌うトゥアレグ
80年代に生まれた現代のトゥアレグ音楽ほど「レベル・ミュージック」と呼ばれるにふさわしい音楽はない。当時、マリやニジェールの大勢の若者たちが、激しい旱魃と失業を逃れて、リビアのカダフィ大佐の軍事キャンプで訓練を受け、90年に両国で起きたトゥアレグのテリトリーの自治を主張する反政府武装蜂起に参加した。
そのなかの一人が、エレキ・ギターを武器にマリ軍による市民への虐殺や亡命の苦しみを語る詩をカセット・テープで録音した、ティナリウェンのイブラヒム・アグ・アルハビブである。40年経った今でも、90年代に書かれたティナリウェンのレパートリーは、トゥアレグの若者たちによって歌われ続けている。00年代後半から、テラカフト、タミクレスト、デゼール・ルベル(Desert Rebel)というティナリウェンの最も忠実な後継者であるバンドは、それぞれのスタイルによってタマシェック語で「アッスフ」と呼ばれるノスタルジーとレジスタンスが溶け合う非常にディープな音を世界に送り続けた。12年はアルカイダ系のイスラム過激派テロ組織がマリ全域に拡大し、世界中のプロデューサーなどが集まるティンブクトゥの「砂漠のフェスティヴァル」がなくなってしまった。しかしちょうどその頃、砂漠の都市にネットやソーシャル・メディアが到来し、アルジェリア、マリやニジェールのサハラで活躍する新世代のトゥアレグ人アーティストが携帯を通じて名を馳せ、オリジナルかつローカルな音を作り出した。
ニジェールの音楽シーンは、07年からアガデスでスターとなったボンビーノの影響が非常に大きい。彼の速くて華麗なギター演奏とポジティヴな曲で熱心に踊る観客はこれまでと違うダンスの雰囲気を醸し出し、海外でも人気を博した。エムドゥ・モクターのヴァン・ヘイレン的な演奏や、ベルギーを拠点にするケル・アスーフのストーナー・ロックも大好評。また、16年から活躍している女性3人組=レ・フィーユ・ドゥ・イリギャダによるギター/ヴォーカルとテンデ(トゥアレグの太鼓)の組み合わせは、フェミニスト的な視点とともに新鮮だった。
アルジェリア側では、人口20万超のタマンラセットを拠点とするカデール・タルハニンが、アルカイダによってサハラがカオスに陥った12年に、爽やかなラヴ・ソング ‘Tarhanine Tigla’ で大ヒットを飛ばした。アーティスト名はこの曲の「タルハニン」(タマシェック語で「私の恋」)に由来し、まさにトゥアレグの“ラヴァーズ・ブルース”と言える。西アフリカと北アフリカをツアーして文化的多様性のメッセージを伝えるカデールは、民族紛争が激化しているマリでは大きな影響力を持っている。また、いま大人気なのは、アルジェリア中部の町イン・サラー出身のバンド、ティクバウィン(Tikoubaouine)である。タマシェック語とアラブ語で歌う彼らは、19年にモロッコのレーベル、オストワナ・ミュージックからファンキーな ‘Tiniri’ やサハラのベルベル族に捧げた ‘Ana Sahraoui’ をリリースし、ライヴでは観客がいつも大合唱する。
マリ北部ではタルティットをはじめ、大勢のティンブクトゥ出身のアーティストが90年代から10年代にかけて、モーリタニアやブルキナファソの難民キャンプでバンドを結成した。亡命生活を送っているアッバ・ガルガンド(Abba Gargando)は、携帯電話で録音されたローファイで超ラフなアルバムをサヘル・サウンズからリリースして注目をあびた。モーリタニアの若き3人組、アスフ・ドウナ(Assouf N’dawna)のメランコリックで感動的なギターの調べは、難民キャンプにおいて携帯のアプリで演奏を覚えたものだ。戦争で学校が破壊された砂漠の子供たちの曲 ‘Aratane N’ Adagh’ や苦しい亡命生活を送るトゥアレグの女性に捧げる ‘Tisnant An Chatma’ などを歌うタミクレストは、06年の結成以来、ピンク・フロイドやダイアー・ストレイツ的なヒプノティックなギターの調べと「アッスフ」が溢れる詩を送り続ける。
パイオニアであるティナリウェンは、11年のグラミー賞ベスト・ワールド・ミュージック・アルバムを勝ち取った “Tassili” 以降も、アルバムを6枚リリースするなど精力的に活動している。最先端のプロダクションや多国籍なアーティストとのコラボレーションを収めたアルバムはアメリカやモロッコなどで録音されるが、いまだメンバー全員がサハラ砂漠に住んでいる。23年からマリ軍事政権がロシアの民間軍事会社ワグネルの傭兵を雇い、トゥアレグ族の大虐殺が起きている。この悲惨な状況だからこそ、ティナリウェンは24年、トゥアレグ反乱の時代に作曲した楽曲のデモ音源を収録した “Idrache (Traces Of The Past)” をリリースした。トゥアレグのアイデンティティが危険にさらされている今こそ、音楽は武器である。
デコート豊崎アリサ
2010年から2015年までのトゥアレグ音楽のディスクガイド (アリサ)

ZOZODINGA /ABDALLAH OUMBADOUGOU /2012
アブダラー・ウンバドゥグーが作曲した90年代の曲を再録音したソロ作。当時、ニジェールでのトゥアレグ反乱に積極的に参加したアブダラーの曲は禁止されていた。05年からアマジーグ・カテブ(グナワ・ディフュジオン)やダニエル・ジャメ(マノ・ネグラ)などがアガデスに滞在したのをきっかけに、彼はデゼール・ルベルを結成し、アガデスで設立した音楽学校をサポートする「文化とレジスタンス」のプロジェクトを共に立ち上げた。仏録音の本作はダニエル・ジャメ制作で、 ‘Djeiche Chaabi’ などアブダラーの最も美しいメロディを初リリースする。20年に亡くなった彼の最後の収録である。

SONG FOR DESERT REFUGEE/ VARIOUS ARTISTS / 2012
マリ戦争を逃れたトゥアレグの遊牧民を支援するために、ニジェール、マリとアルジェリアのトゥアレグのバンド12つが無償に提供したオリジナルな曲で作られた奇跡のアルバム。企画はフランスのレーベル「レアクション」で、売上は難民を支援する現地のNGOに寄付された。タミクレストの強烈な「Warktifed」の他、イブラヒム・ジョ・エクスピリエンスの「Blues du desert」は実験的で新鮮。またあまり外国に知られていないマリ北部出身のアマナールやタダラット、ニジェール出身のトゥアレグ族とプル族が結成したイトラン・フィナナワ、アルジェリア出身のナビル・バリ・オスマニなどによる様々なブルースのスタイルを発見できるコンピレーション。

TAGHLAMT/ KOUDEDE/ 2013
ニジェールのウランの町、アーリット出身のクーデデ・ママンは00年代に「トゥアレグ」の名前を持つ車を作ったフォルクスワーゲンに捧げた曲 ‘Golf’ でアガデス地方の結婚式などでとてもポピュラーになった。04年、仏タクシラからの初作 “Amghar-D’ana”、06年の “Alam’i” で海外活動が始め、トゥアレグ族が営む塩キャラバンを意味する本作もタクシラから。初作収録版とまた違うヴァージョンの名曲 ‘Golf’ や圧倒的なロックのサウンドの ‘Dounia’ などがかっこいい。12年、アルバムのリリース前にクーデデが車の事故で亡くなったため、利益は家族を支えるために寄付されることになった。(アリサ)

LIVE FROM SAHARA/ TARTIT + IMARHAN TIMBUKTU/ 2013
戦争が始まった2012年、マリのティンブクトウ地方で最後に行った「砂漠のフェスティバル」で録音したライブ‧アルバム。ファディマタ‧ワレット‧ウマル=ディスコが率いるタルティットは90年代モーリタニアの難民キャンプで結成したテンデ(太鼓)やイムザド(一弦のバイオリン)というトゥアレグ女性が演奏する伝統的な音楽を紹介するベテランのバンド。テンデと手拍子のリズムに男性が踊る「Dehebo」などはトゥアレグの母系社会を表現する。ライブ感がしっかり録れた「Aicha talammont」は、タルティットのメンバーでもあるギタリストのモハメド・イッサ・アグ・ウマルが結成したイマルハン・ティンブクトゥの名曲である。

IKEWANE/ KADER TARHANINE / 2019
ティックトック50万人のフォロワーを持つアルジェリア出身のカデール・タルハニンのデビュー作。2012年、彼が結成したバンド、アフース・ダフース(Afous d’Afous)のラブ・ソング「Tarhanine tegla」で大ヒットして、2017年にサヘル・サウンズにアルバムをリリースした。2018年マリの大スター=シディキ・ディアバテとバンバラ語とタマシェク語で歌う「Tarhanine」で再ヒットし、アーティスト名はタルハニン=タマシェック語で「僕の恋」となった。マリ、ニジェールやアルジェリアの各地でライブするカデールが常に文化多様性を高い声で歌い、このアルバムも有名なマリの「砂漠のフェスティヴァール」を創立したマニ・アンサールがプロデュースした。

FROM MISSISSIPI TO SAHARA / FARIS/ 2015
子供の頃アメリカのブルースもトゥアレグ音楽だと思っていたファリス・アミン。父がイタリア人、母がトゥアレグの彼はデルタ‧ブルース12曲をタマシェク語も加えアレンジし、ミシシッピーからアフリカへ里帰りするスピリチュアルな旅を提供。わずか3日間で録音された声とギターのみ(ワイゼンボーンギターもトゥアレグ音楽では初)のアルバムはフランスのレーベル「リアクション」企画。サン・ハウスの曲からアレンジされた「Inezdjam (Grinnin’ in your face) 」はアメリカ人とトゥレグ人のブルース、そして英語とタマシェク語の歌詞が完璧に混ざり合う。亡くなった当時83才のレオ‧ウェルチのかけがえのない演奏も2曲に入っている。

ALONE / TERAKAFT / 2015
ティナリウェンの創立者の一人であるインティヤデン・アグ・アブリルの弟、ディアラと彼の甥のサヌ・アグ・アフメドが組むデュオのテラカフトが提供する衝撃的なアルバム。2012年作’ケル・タマシェック’より3年振りの新作となる本作はイギリス人のギタリストとプロデューサー=ジャスティン・アダムスが仕掛けたトゥアレグ族による初のエレクトロ・ロックを含む。メクシコとサハラのカクテルのような「Karambani」やスカっぽいリズムと奇妙な歌声の「Anabayou」、そしてデジタル版にダンス・ミックスのボーナスもあるトゥアレグ・エレクトロの「Tafouk tele」で盛り上がる。

IDRACHE / TINARIWEN / 2024
1963年、初めてのトゥアレグ反乱時にマリ軍による虐殺を語る「Soixante trois」から始まるティナリウェンの新作。ほぼ全曲は2006年マリ北部キダル市で録音された曲だが、「Amidinin War Hi Toyed」という初リリースの曲もあって、どの演奏も非常にミニマルで砂漠のからっとした空気を感じらせる。「Assuf ag assuf」には、リーダーのイブラヒム・アグ・アルハビブと亡くなったティナリウェンのメンバーだったモハメッド・アグ・ティタとのコール&レスポンスのデュオは最高である。非常にスローモーションのトラック・リストの最中、砂嵐のように出てくる「Tenhert」のアブダラ・アグ・アルフセイニによる強烈なタマシェック語のフロウも。

TAMOTAIT / TAMIKREST/ 2020
2020年3月というコロナ禍の最中にリリースされたタミクレストの未知で宝のアルバム。マリ北部=アザワド出身のウスマン・アグ・モサがリードするバンドが結成されてから5作目のアルバムはアイリッシュのロック・バンド=ザ・フレイムスのギタリスト、ダヴィッド・オドラムがプロデュースで、モロッコのブルベル族のインディ・ザーラの他、坂田淳(東京月桃三味線)やアイヌのトンコリを弾くOKIというレアーなアーティストたちがコラボレーションした。自分の国=アザワドを持つ夢を歌う「Azawad」や「Amzagh」の洗練されたメロディー、革命心が溢れる「As Satnan Hidjan」等、ウスマン・アグ・モサが日本滞在中で作曲したと知るとさらにオリジナリティを感じる。
「トゥアレグ、自由への帰路。その後のトゥアレグ族」
8月30日(日)16:00〜 @Hako Gallery Tokyo
予約はcontact (at) sahara-eliki.org までお願いします。

