Interview in Transit

Transitより紹介記事です。https://transit.ne.jp/2022/04/001541.html

Story – 2022年4月16日

#旅のハローワーク
遊牧民トゥアレグの文化を伝える
デコート豊崎アリサさん

異国と日本をつなげたり、旅を仕事にしていたり……。世界のことをいろんな方法で伝える人たちがいる。なぜその国・地域が好きになったの? どんなふうに仕事をしているの? 気になる旅と仕事の話を訊いてきました。 

text=TAKUMI OKAZAKI

今回お話を伺ったのは、東京、パリ、そしてサハラを拠点に多彩な活動をするデコート豊崎アリサさん。古来より北アフリカで生活する遊牧民族トゥアレグの文化を伝え、支援する活動をライフワークとしてきた。TRANSIT44号「砂漠の惑星を旅しよう」の取材では、ガイドとして一緒に旅をしていただいたことも。 8_20220416_DSC03888.JPG9_20220416_DSC03889.JPG

アリサさんも一緒に旅したTRANSIT44号の砂漠特集。写真のオアシスの町アイト・アイスフォールはアリサさんが砂漠の世界と出会った思い出の場所でもあるという。

アリサさんの経歴のなかでも特筆すべきは、男性のみで構成されるトゥアレグの伝統的な交易「塩キャラバン」に2度参加したこと。自身が撮影・監督を務めたドキュメンタリー映画『Caravan to the Future』は、4カ月、およそ3000kmに及ぶその旅の記録をまとめたものだ。 

“本物の世界”を旅する

3_20220416_DSC03874.JPG著書『トゥアレグ 自由への帰路』のプロフィールには、「日本人とフランス人の両親をもつジャーナリスト、写真家、ドキュメンタリー作家」とあるが、一体なにものなのか? ご本人に尋ねてみると、こんな答えが返って来た。 

「なにものなのかはわからないですね。ジャーナリストといわれることは多いですが、それも一つの手段というふうに思っています。とにかく旅が私の仕事で、違う時代だったら探検家だっただろうと思います」 

そのような生き方を選んだ原点には、フランス人の父親の存在がある。お父さんの口癖は、「”本物の世界”はどんどんなくなっていくから、早く旅をしないと!」だった。 

そんな父に連れられて、幼い頃からハードな旅を何度も経験した。とくに中央アフリカの熱帯雨林に住む「ピグミー族」の森を訪れ、キャンプをした記憶は今でも鮮烈に残っているという。”本物の世界”とはつまり、消費社会から遠く離れた、野生に満ちた土地のことだった。 

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サハラ砂漠の遊牧民、トゥアレグの男とラクダたち。

「初めて遊牧民を見たのは、チベットのラサでした。その誇り高さに、びっくりしました。同じ国の人でも、定住している人たちとはまったく雰囲気が違います。ターバンの向こうからじっと見てきて、まるで魂の底まで見透かされているような気分になったのを覚えています。自分たちの生き方に絶対的なプライドをもっている。これは(後に出会うことになる)トゥアレグやベドウィンにも通じることです」 

砂漠との運命的な出会い

「運命的な出会い」があったのは、1997年、27歳のときだった。アリサさんはその頃、バブルの余韻が残る東京で5年間暮らした末に、精神的に疲れ切っていたという。 

「これは今も変わっていないことかもしれませんが、とにかく消費社会で、金、金、金という感じで、それが楽しいときもあるんだけど、ふとしたときに、私は何がしたいんだろうって考えました。モデルや通訳の仕事を少しずつしていたけど、一生やっていく気にはなれなかった。日本にいると、自分の弱点ばかり見えてきて、このままでいいのかな、と」 

そんなとき、父に連れられて2人でモロッコを旅することに。知り合いのフランス人に誘われて砂漠ツアーに参加し、夜はサハラの砂丘でキャンプをした。そして、外を歩いていたときに「一生に一度の、神秘的な体験」をした。 

「星空が360°に広がっていて、ベドウィンが神に捧げる音楽を歌っていて、太鼓の音、焚き火の灯り、そのすべてに圧倒されて、ぐあああああって、自分の中で何かが起きたんです。ここには自分がずっと求めて来たものがある、私はここに来るべきだったんだと感じました。日本での生活に戻ったあとも、頭の中は砂漠でいっぱいでした。早くあの場所に戻りたかった」 

もしあれが運命の出会いだったなら、もう一度チャンスが来るはずだ。そう信じて日本で生活していたとき、友人から電話があった。モーリタニアで活動するNPO団体がフランス語通訳を探しているらしい。すぐに地図を取り出して、モーリタニアの国土の4分の3が砂漠であること確認する。すぐに面接を受けにいき、無事採用された。日本での生活をすべて捨て、モーリタニアで通訳の仕事に就くことになった。 

3頭のラクダを連れて砂漠へ

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塩キャラバンに参加したときのアリサさん。

その期間が終わり、次はどこで何をしようかと考えていたとき、JICAの砂漠化防止計画の通訳募集広告を見つける。直感的に飛び込み、ニジェールで3カ月間、働くことに。トゥアレグの「塩キャラバン」を知ったのはそのときだった。 

塩キャラバンとは、トゥアレグが1000年にわたって続けてきた伝統的な交易のこと。自分たちのキャンプを出るときにドライトマトや玉ねぎなどの野菜をラクダに積んで、砂漠を進む。オアシスに着くと、それらと引き換えに岩塩やナツメヤシを買う。さらにそれを南へ運び、ミレット(穀物)と交換する。そして元いたキャンプへ戻る。 

「だから塩キャラバンの目的はミレットを持ち帰ることなのですが、ただ、それだけじゃありません。物々交換を2回に分けて行うことで、広大な砂漠に散らばる人びとの生活をつなぐ役割も担っています」 

水がないなか、1日16時間歩き続ける過酷な旅だが、アリサさんは「夢にも想像できないおとぎ話のような世界」と憧れを抱いた。観光ツアーではない、本物の遊牧民と砂漠を歩く体験をしてみたい。そこに参加することができれば、父の言う「本物の世界」を見ることができるかもしれない。

「ツアーじゃないから、どこに行けばトゥアレグに出会えるかもわからない。それでも、とりあえずラクダを3頭買って、大体のルートを地元の人に聞いて、砂漠に出ました。そして、6日間歩き続けた末に、塩キャラバンに向かうトゥアレグたちと遭遇しました。本当にラッキーでした。挨拶をすると、仲間に入れてくれて、3頭だったラクダの群れが、一気に400頭に増えたんです」 

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サハラ砂漠に国境ができる以前から縦横無尽にラクダで旅をしていたトゥアレグたち。その後をたどってアリサさんも国境を超えていった。

その5年後、「写真と文章だけじゃ伝わらないから、映画を作りたい」と思い立ち、またしても参加することになる。ソーラーパネルをラクダに積み、撮影に必要な電気をまかなった。トゥアレグと行動を共にして、国境を超えて砂漠を旅した。 

トゥアレグの民の”メクトゥブ”という考え方

現地でよく耳にする言葉で、”メクトゥブ”というものがある。アラビア語の口癖のようなもので、直訳すると「すでに書かれている」という意味になる。 

「日本語でいう、”運命”のようなものです。すべて神のみぞ知る。だから、とりあえず飛び込んで、あとは神に委ねる。そういうシンプルな考え方です。とにかく直感で動いて、もし運命だったらチャンスが来るはずだし、来ないならそれは運命じゃない」 

この言葉は、まさにアリサさんの人生にも通じるところがある。初めての「塩キャラバン」参加を果たした後、アリサさんはトゥアレグ族の生活を支援するため「サハラ・エリキ」を設立し、キャラバンを体験するツアーを主催。ラクダ使いという職業を保護するため、世界中からラクダのオーナーを募集する活動をしたり、クラウドファンディングでお金を集め、ラクダを購入してトゥアレグに送ったりと、サハラを拠点にした活動を広げていく。6_20220416_DSC03880.JPG

アリサさんが主宰したサハラツアー「サハラ・エリキ」の様子。ツアー参加者が自分でラクダの手綱を握って、一見、現地の遊牧民たちのように見える。

砂漠での生活にすっかり馴染んでいたとき、日本で東日本大震災があった。とくに原発事故の報道には衝撃を受け、「現地に行こう」と帰国を決意した。 

福島原発事故を取材し、放射能について知識を深めていくなかで、ニジェールの鉱山でも被曝問題が存在することを知る。今度はその鉱山の取材に全力を注ぎ、報道雑誌連合組合の調査報道大賞を受賞……。 

まさに遊牧民のように次々と場所を変えながら、「飛び込んで、あとは神に委ねる」ことを続けてきた。幼少の頃、アリサさんが遊牧民の佇まいに惹かれたのは必然だったのかもしれない。 

「遊牧民はいらないものはどんどん捨てて、最低限のものだけを持ちます。砂漠の遊牧民だとなおさら。何もかも捨てていった結果、そこから何か生まれるというふうに考えます」 

塩キャラバンをユネスコの世界文化遺産に登録するという、次なる野望もあるのだという。また、コロナの影響もあり中止になっているツアーも、今年中の再開を目指している。 

アリサさんの活動に興味のある方は、サハラ・エリキのHPを、トゥアレグの世界に興味のある方は、ぜひ映画『Caravan to the Future』をご覧ください。4月17日(日)にはシネマート新宿で、4月26日にはアップリンク吉祥寺で上映イベントが開催されます。 

上映イベント詳細はこちら
「サハラ・エリキ」HPはこちら 

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